パーカッション音源:Orchestral Tools “Berlin Percussion” レビュー【前編】 購入へ至る経緯と他打楽器ライブラリとの比較

オーケストラにおける打楽器という存在は、時にコンマスや指揮者よりも上に立つことすらある、非常に重要なものです。
それというのもオケで最も大きな音を出せる楽器群は打楽器であり、基本的にリズムを刻んでいることが多いことから、やろうと思えば指揮者を無視してテンポを先導することもできてしまうんですね。
もしオーケストラを指揮する機会があったなら、打楽器の方々とは真っ先に仲良くなるべきだと思う理由がこれです。
まあDTMにおいてはグリッドに逆らえる音源など存在しないので、どれだけ雑に扱っても嫌な顔一つせず演奏してくれるのですが、それはそれとして音量が大きいというのは無視できない特徴です。
今となっては各社から高クオリティの打楽器音源は数多く出ていますが、打楽器に何の音源を使うかでオケ全体の印象が結構変わるため、自分がどんな音楽を目指すかが打楽器音源選びの鍵となってきます。
今回は私がメインで使っている打楽器音源、Orchestral ToolsBerlin Percussion(以下BPC” のレビューを、私がこの音源を選んだ経緯とともに書いていきます。

※書いていくうちにだいぶ長くなったので、前後編に分けて投稿します。

目次

なぜBPCを選んだのか

まず、オーケストラの打楽器音源は大別すると2種類に分けられると考えています。
クラシック系オーケストラ・パーカッションと、エピック / シネマティック系オーケストラ・パーカッションです。
それぞれの特徴はこんな感じです。

クラシック系
エピック / シネマティック系
  • ロマン派~近代のオーケストラで用いられる打楽器を中心に収録
  • 基本的に各楽器ソロで演奏
  • 特に重視する音域はない
  • オーケストラ音源系の会社がよく出している
  • 太鼓やタムなど、主に壮大系な映画音楽で使われる打楽器を中心に収録
  • アンサンブルのパッチが多い
  • 低音最重視
  • 割と色々な会社が出している

BPCはここでいうクラシック系に属します。
クラシック系はオーケストラや楽器名称についての基礎知識がないと使うのは難しく、その上あまり流行りではない音も収録されていることが多いので、今から「オケっぽい曲」を書きたいならエピック / シネマティック系音源から選ぶ方がいいと思います。
ですが本格的なオーケストラを打ち込むなら、やはりクラシック系を一つは持っておきたいところです。
私の場合、エピック / シネマティック系は既に “LA Modern Percussion” という音源を持っていたため、クラシック系から音源を選んでいきました。
最終候補に残ったのは以下の音源です。

それぞれについて私の感じた特徴を書いていきます。

Spitfire Audio “Spitfire Percussion”

現代オーケストラ音源を選ぶなら絶対に外すことのできないメーカー、Spitfireの打楽器音源です。
収録楽器の種類は申し分なく、例によって豊富かつ質のいい残響も備えており、オーケストラ・パーカッション音源としては定番と言えるでしょう。
特にSpitfireの他のオーケストラ音源をお持ちの方は、同じホールで収録されていて響きの親和性が良いことから、これを第一候補とするのが良いと思います。
私の場合はSpitfireの音源をパイプオルガンくらいしか持っていないため、この恩恵にあずかることはかないませんでした。
とはいえ音に癖はなく、扱いやすそうな印象を受けます。
定価は$399と、Spitfireにしては安めな設定なのもいいですね。

それならこれで良いのでは?と思われてしまうかもしれません。実際私もかなり悩みました。
ですが、一応いくつか欠点はあります。
その中でも特に大きいのは、どの楽器もマレット(スティック)は一種類のみの収録という点。
特に鍵盤系はマレットの質感を選びたい場面が多く、音作りをこだわりたい私にとっては結構なマイナスポイントとなりました。
また、マイクポジションが3つ(Close、Tree、Ambient)しかないことも音作りの幅を狭めています。

Cinesamples “CinePerc”

エピック / シネマティック寄りなオーケストラ音源メーカー、Cinesamplesの打楽器音源です。
この音源はもともと4つのパッケージ(Core、Pro、Epic、Aux)に分けられていたようで、そのぶん収録楽器数は他を圧倒するほどの多さですが、定価も$749とかなり高めに設定されています。
クラシック系だけでなくエピック / シネマティック系の音も収録されているので、それを考慮すればむしろ安いかもしれませんが……。
音は全体的に派手めな印象。特にドラム系は埋もれず前に出てきやすそうな音で、使い勝手は良さそうと感じました。

しかし、派手すぎて逆にクラシカルな音像には合わなさそうな雰囲気があります。
発売が10年前と結構古めな音源なのも気になりました。

Vienna “Synchron Percussion”

老舗定番オーケストラ音源メーカー、ViennaのSynchronシリーズの打楽器音源です。
現状のクラシック系打楽器音源界において、音に関しては恐らく最強だと思われます。

欠点は何といっても価格です。
このシリーズはⅠ~Ⅲ+ドラムセットまで出ているのですが、全てをフルバージョンで揃えた場合の定価はなんと€1,990。
マイクポジションを絞った廉価版ですら€1,130します。
Ⅰの廉価版のみなら€465と買えなくはない価格ですが、必要最低限のものしか収録されておらず、少し凝ったことをやろうとするとⅡやⅢが欲しくなりそうな気配がします。
セールでもそこまで安くはなりません。
少しでも妥協したくない方にはおすすめです。
私は諦めました。

Strezov Sampling “Orchestral Percussion X3M”

一風変わった音源が多いメーカー、Strezov Samplingの打楽器音源です。
最終候補の中で唯一、オーケストラ系音源がメインのメーカーではありません。
発売が2019年とかなり新しいこともあり、意外とこの音源の存在を知らない方も多いのではないでしょうか。
しかし、音像は近めで現代的、収録楽器数も多く、何より定価€149と非常に安いことから、実はとても良い音源なのではないかと感じています。

欠点は音が少し軽めに感じられること(私がこれを買わなかった理由です)、マイクポジションが3つ(Close、Decca、Hall)しかないこと、有償版Kontaktが必要なことくらいで、どれもこの価格なら納得せざるを得ません。
今から買うならこれを選んでおけば間違いはないかなと思います。

Orchestral Tools “Berlin Percussion”

本命です。
Orchestral Toolsはオーケストラ音源メーカーとしては昔からありますし有名だと思うのですが、代理店がないせいか、日本ではいまいち定番になりきれていない感があります。
音は非常にクラシカルで、Cinepercの派手さとは対極な印象です。
マイクポジションは4~6あり、決して少なくありません。

問題は定価(€499)の高さと、ティンパニが含まれていなかった(後述)ことです。
価格はセールを狙えば半額で買えることがあるのでいいとして、クラシック系打楽器音源なのにティンパニが含まれていないというのは極めて重要な問題です。
例えるなら寿司屋なのにマグロがないとかそんなレベルです。
幸い(?)拡張ライブラリとしてティンパニ単体で売っていたので、先にBPC本体をセールで手に入れてからティンパニのセールをゆっくり待つ……というのが、私の当初のプランでした。
一応代替音源は持ってましたし、さすがにティンパニ単体で売るだけあってかなり良さげな音源だったので、セールを待つ価値はあると踏んでいたんですよ。

BPCの拡張ティンパニ音源について

(ここから先は笑い話です)
さて、黒金を待って無事に半額でBPCを購入することができました。
その当時はKontakt音源だったのですが、ここ数年Orchestral Toolsは自社のサンプラーであるSINEへの移行を進めており、過去のKontakt音源は移行した際に短期セールを行うのが通例となっていました。
実際私がBPCを購入した一年後にBerlinシリーズはSINEへ移行し、半額セールも開催されたのです。

しかし、そこにティンパニの姿はありませんでした。

まあ他の拡張音源もセール対象外だったので、いずれ来るだろうと思って特に動揺はしませんでしたが。

そして次々と発表されるSINE移行。

一向にティンパニのセールはなし。

ディスコンの気配すら漂い始めます。

ところでSINEというサンプラーの初期バージョンは非常に重いことで知られており、私も出た当初に触ってみたところ、その重さに驚愕した記憶があります。
なので比較的最近までBPCはKontakt版のまま使用していました。
しかしアップデートにより重さが軽減され、落ちにくくもなったとの情報がTwitterで流れてきまして。
それなら最新版を使うかってことでSINE版のBPCをダウンロードしてみました。
Kontakt版の所有者は無料でSINE版もくれるそうです。ありがたいですね。

そしてBrowseボタンを押してみると……

……ん?なんか項目が増えてるような……?

……は!?!?なんでティンパニ入ってんの!?!?!?
しかも拡張音源と全く同じ仕様なんですけど!?!?!?!?

……ということで、どうやらSINE版のBPCは価格据え置きでティンパニも統合しちゃったらしいです。
私が探した限りどこにもそんなアップデート情報はなく、なんならKontakt版の拡張ティンパニ音源は未だ売られているのですが、入っているものはありがたく使わせていただくことにします。
太っ腹ァ!
(この事実に一年近く気付かなかった悲しみ……)

続きは後編へ

さて、ずいぶん長文になってしまったので、BPCを実際に使ってみたレビューは後編に投稿させていただきます。
後編は投稿次第こちらにリンクを貼ります。
追記:後編投稿しました!こちらからご覧ください。
パーカッション音源:Orchestral Tools “Berlin Percussion” レビュー【後編】 クラシカルで繊細なオーケストラ打楽器ライブラリ
それではまた。

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